■ トレンチレスキュー
 

【解説】

 トレンチレスキューとは、掘削等による崩落事故や土砂崩れにより生き埋めになった要救助者を、 周囲が崩れないよう処置を行い、二次災害を防止しながら救助活動を行うことである。
 

 もともと「トレンチ」とは、戦争などで敵弾から身を隠して行動するために掘った「塹壕(ざんごう)」のことである。
 ここでは現場を「塹壕」、溝を「トレンチ」と呼んでいると思われる。(私見)

 
 塹壕の崩壊は、一般に、不安定な土壌条件と不適切または不十分な施工が組み合わさって発生する。
 土や瓦礫の除去、開口部の端に重量を加えること、振動(車両の移動など)、雨、または単に時間の経過によって、 救助活動中いつでも崩落を引き起こす可能性がある。
 崩壊したトレンチは、救助隊が掘り起こしているときに、再び崩壊する可能性が50%を超えている。
 この潜在的な二次崩壊は、悪天候、破裂したラインからのガスの放出、 壊れた水道管などの多くの要因と組み合わせることで対応を困難にする。

 
【活動内容】

〈準備〉
 使用資器材の準備(コンパネ、パイプサポート、スコップ等)。
 活動が長期になり夜間活動の可能性もあるため、ライトと発電機も準備。

〈初動〉
 消防車両は、事故現場から30m以上離す。(振動を極力なくす。崩落現場は微動で崩壊する。)

 目撃者を特定し、被害者の場所を聴取する。
 被害者の数を特定する。
 可能であれば、患者の状態を確立する。

 ホットゾーン(危険区域)を確立(10m以上外)し、三角コーンを置く。
 現場を確保し、救助隊以外の人の立ち入りを禁止する。

 
 被害者の数と位置を確認する。
 資器材は、ホットゾーンの外に置く。
 必要でない民間人は全員、崩壊地から少なくとも50m離れた場所に避難させる。

 この段階では隊員はトレンチには絶対入らない。

 地上振動を停止するために、崩壊地から100m以内で作動するすべての掘削機器をシャットダウンする (これは同僚が要救助者を「救出」しようとする行動も防ぐ)。
 ガス管や水道管(地下に埋没されている配管)について関係機関から情報を得る。

〈塹壕へのアプローチ〉
 可能であれば、溝の両端からアプローチする。
 亀裂や不安定な土砂の山など、未確認の危険物を探す。
 不適切な安息角や全体的ながたつきがないか、土砂の山を評価する。
 トレンチの周囲にあるつまずきの危険を取り除く。
 ガス検知器で環境測定する。
 荷重を分散させるためにグラウンドパッド※1をトレンチの周りに敷き、トレンチの崩壊を防ぐ。
  ※崩壊程度が確認できるよう、グランドパットは少しの隙間をあけて置く。
  ※必要でない救助隊員は危険区域に入らないようにする。

 

〈ガードパネル設置〉
 防塵マスクや呼吸器等、適切な装備(PPE※2)を着用する。
 隊員1名が梯子でトレンチ内に進入し、要救助者の位置からガードパネルを設定する。
  ※トレンチ内に出入り用の梯子を設置する。少なくとも2つの梯子を設置すること。
  ※進入隊員は、有事の際緊急脱出できるように細心の注意を払う。
 使用する支保工(ショアリング※3)を決定する(例:油圧式支保工、空気式支保工、木材式支保工)。

 パイプサポートは上部の隊員がロープを使い下し、転落防止をする。
 パイプサポートの間隔は約1m。
 

〈要救助者へのアプローチ〉
 梯子で隊員が降下し手掘りで埋没している要救助者の頭と胸を最初に掘り出す。
  ※被災者が歩行可能の場合、自らセーフティゾーンに行かせる。
  ※隊員は必要なければ塹壕に入らないようにする。
 要救助者までの距離がある場合は、スコップを使用する。

 横隔膜の下まで被災者を掘り起こしたら、被災者の状態を評価する。

 骨折やクラッシュシンドローム※4等の状態の可能性がある場合、救急隊に処置してもらう。

〈救出〉
 アリゾナボーテックス※5や梯子クレーン、救助工作車のクレーン等を使用し救出する。
  ※パイプサポートが障害になり、救出は困難になる。

〈撤収〉
 工具、機器、およびトレンチ支保工システムを溝から取り外す。
 死亡事故が発生した場合、調査プロセスが完了するまで、すべてをそのままにしておくことを検討する。

 塹壕は微動で崩壊するため振動を極力なくす。

 救助スキルがない隊員は塹壕に入らない。

 
【参考】

〈土留め〉
 地すべり等において、要救助者が生き埋めになった場合、 掘削した際にかかる土圧※6を保持する又は掘削部へ周囲から流入する土砂を留める目的でコンパネなどを用いて簡易的な構造物を設定すること。

◆救助活動を行う上で比較的簡単な、コンパネと単管を用いた応急的な手法の一例を紹介する。

 コンパネを横にして、要救助者がいるであろう場所の上部に設定する。
 ハンマーで単管を打ち込む。
 単管は「打ち込み座金」や「先端金具」で補強し、打ち込む深さを赤く明示している。

 

   

 

 掘削する反対側にも単管を打ち込む。
 打ち込んだ単管2本を、ロープで固定する。

   

 

 掘削しながら、コンパネを打ち込んでいく。
 コンパネを打つ際は、破損しないよう木材等を当てて掛け矢で打つ。

   

 

【補足】

 「トレンチ(塹壕)」の定義。
 人為的または自然的に作られた、4フィート以上の窪み、穴、溝、または土壁。

 ※1 グラウンドパッド
 ※2 PPE
 ※3 ショアリング
 ※4 クラッシュシンドローム
 ※5 アリゾナボーテックス
 ※6 土圧

 
(参考資料) 土砂災害時における消防機関の救助活動要領  

 

 

 

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